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カップルウォッチャーととろvs.幸せ撲滅計画(2) ※ 前回のあらすじ! カップル狩りが好きなごく不良の高校生、大型台、中型那賀、小型省。彼らを取り巻く暗黒学園生活。だがそ れはデバガメ少女の心に生まれた小さな歪みによって一変してしまう。 学園を襲う突然の異変。俺達が目覚めたそこは、見知らぬ戦乱の異世界だった。 「お前嘘つけよ」 ※ 「謎の美少女戦士、カップルウォッチャーここにあり!」 「近森さんか。今は危ないから――」 「謎の美少女戦士ッ!!」 訂正とともに足が出た。止せばいいのに余計なことを口にした先輩の脇腹を、不意打ち気味の一撃が抉る。今 更恥や外聞を思い出したらしく、照れ隠しこみのその破壊力は凶悪だった。 「げふー!?」 冗談のように吹き飛ばされる先輩。校舎の壁に強かに後頭部を打ちつけて静止した。 奇妙奇天烈な扮装をした怪人物のいきなりの凶行に、不良三人組も戦いの中で戦いを忘れた。 「お前、そいつに何の恨みがあるんだ……?」 「ああああ!? ご、ごめんごめんよ先輩くん!」 我に返ったカップルウォッチャーは、うずくまって痙攣する先輩に慌てて駆け寄り、半泣きで謝りながら背中 をさすった。……そこ違う。 ――しばらくお待ちくださいッ―― 「手当てはこんなものかな!?」 介抱もそこそこに、謎の美少女戦士・カップルウォッチャーは改めて己が真の“敵”と対峙した。ハートをか たどったバイザー越しに、怒れる瞳が不良三人組を睨み据える。 このあたり、律儀に待つほうも待つほうだが、どちらかというと彼らは帰るタイミングを逃した感が強い。 「気を取り直して! そこのリーゼント、モヒカン、そしてハゲ!!」 「ハゲぇ!?」 カップルウォッチャーは口上を続けながら、ステッキの先端、少女趣味というかやりすぎてちょっと悪趣味な 飾りで、立ち尽くす不良達を順繰りに指し示す。全世界のシェイブンヘッドのアンちゃんをも敵に回す容赦なし のハゲ呼ばわりに、小型省が愕然としていた。 「あんまりだろ。せめて丸刈りとかにしてやれよ……」 ダメージが抜けきらず未だ苦しげな声でも、先輩はツッコミ先を選ばない。常識人の鑑というか、彼も大概難 儀な性格だった。 しかしもちろん、そんなものに耳を貸すカップルウォッチャーではない。 「一度きりしかない青春! すべての恋人達の逢瀬とあたし個人の娯楽を邪魔するとは断じて許し難いというか ゾンダー許せない! 今、日輪の力を借りて、この愛と正義のブレザー制服美少女戦士・カップルウォッチャー が、問答無用に大成敗しちゃうんだからっ!」 「なんかもういろいろとひどい台詞だが、そこは取り敢えず保留するとして。あんた具体的にはどうする気だ。 殴りっこでもするのか? ……勝てるわけないだろうそんなの」 冷静な先輩の指摘に、カップルウォッチャーの挑発的な微笑が凍りついた。そのようすから彼女に何の策もな いことを察した先輩も凍りついた。 いうまでもないことだが説明しよう! 彼女の纏うコスチュームに、戦闘力を劇的に強化するなどといった機 能は全然まったくこれっぽっちも存在しない。 防御面ではヘルメットとマントの分ある程度期待できても、攻撃面では魔法のステッキによる殴打が関の山で ある。……それでも敗北以外の未来は待ち受けていないだろうが。 何よりウガウガいいながら棍棒を振り回す原始人とやっていることが同じというのは、何ぼ何でも美少女戦士 としては致命的ではないだろうか。 「う……」 「……う?」 「“ウガウガ”じゃなくて“ぴるぴる”なら美少女戦士としても――!!」 「そんなことはどうでもいいから現実を見てくれ」 現実を見てみた。 「ほぉう……。問答無用に大成敗、ねぇ……?」 「面白ぇ冗談」 「やる気っスか」 不良三人組は、揃って拳をぽきぽきと鳴らしていた。さながら女子供も笑って殺せるキリングマシーン(殺戮 機械)であるかのように! 実際には彼らは、カップルをシメようとするときでも狙うのはもっぱら男子のほう であり、女子にはかなり甘いのだが、そんなことは知る由もない。覆し難い男女間の体格差と体力差というもの が、今になって彼女の小さな体に圧し掛かる。 (どうしよう!? ねぇこれどうすればいいの!? 教えてよ、妖精の国からやって来た気持ちムササビっぽい マスコット・ザザビーちゃん!) そんなやつはいない。 初登場話からいきなり大ピンチのカップルウォッチャー。 現状打破の材料はないかと、周囲一帯を落ち着きなくスキャン開始。行き当たりばったりにもほどがある自称 美少女戦士の醜態に、みんなの不安が募っていく。 いつしか、どよめきやざわめきも鳴りを潜め、何ともいえないマヌケな静寂が中庭を支配していた。 「……あ」 しばしの時間を挟んで、カップルウォッチャーが何かに気がついた! 今更でも精一杯に余裕たっぷりを装って不良達に向き直る。 「あ、あははは、やだなーもー。殴る蹴るの暴行なんて、そんなマッチョイズム今時流行らないんだよ? あの ね勝負の内容はね!」 「あん?」 「こ、公平に通りすがりの卓上同好会に決めてもらうし!」 そんなことをほざいて、カップルウォッチャーはびしっと渡り廊下を指差してみせた。 ひどすぎる脈絡のなさに混乱に陥る面々をよそに、人員不足に悩んでいるという卓上同好会の二人は思いがけ ない宣伝の機会に即座に食いついた。 「おお? ハイ、ハイ。俺が卓上同好会部長の加藤だが!」 「同じく副部長の田中です。“ボードゲームで生涯学習”! 卓上同好会はいつだって新入部員熱烈募集中!」 「今なら即レギュラーだぜ!?」 レギュラーとかあるんか。つーかあんたは部長じゃなくて会長じゃね? それがどさくさまぎれの勧誘に対す るギャラリー共通の感想だった。 乱舞する疑問符をさらりと無視して、卓上同好会部長加藤は、あろうことか制服の懐から折り畳み式のゲーム 盤を取り出す。 「さぁて、白黒つけたいあなたにお勧めのボードゲームといえば? ……ズバリこちら!」 ――“覚えるのに一分、極めるのに一生”とひとはいう。 八掛ける八総じて六十四のマスが整然と並ぶ遊戯盤の色は、密林の深緑。その深き翳に息を潜める俊敏なる猛 獣の毛色は果たして白か、黒か。 片面ずつを白と黒に塗り分けた石を駒とし、自分の持ち色側を表として交互に盤面に置いていく。このとき、 必ず縦・横・斜めのいずれかで相手の駒を挟むように打ち、間の駒を裏返すことで自色に変える。最終的には自 色の駒が多いほうを勝者とする。二人零和有限確定完全情報ゲームのひとつ。 すなわち、オセロゲームである! 「オセロ……か。単純だが奥が深いゲームだ。闇のデュエルともいえるか」 「知らねぇよ帰れよ」 突然先輩の隣に虫のように湧いた後輩が、いつもなら絶対にしない男らしい口調で囁いた。 ごく自然に組まれた腕をうんざりと振り解きながら先輩が言い放った言葉には、慣れを通り越して飽きの響き さえあった。 「先輩、倦怠期ですか……? 新たな刺激をご所望なら、え、SMとかどうでしょう。できれば私Sで」 「そんなことより何でお前は俺の上履きを抱き締めてるんだ」 ※ 「興が削がれた。今日はこれくらいで勘弁してやろう」と不良達が、「そもそも不良が一方的に悪いのだろう が。勝負する意味が分からない」と先輩がゴネたのだが、加藤と田中が口先で丸め込んであれよあれよと交渉の テーブルに着かせてしまった。 『それでは第一回ッ! カップルウォッチャーズvs.チーム幸せ撲滅計画! オセロゲーム大会の開催をここ に宣言します! 司会は不肖わたくし卓上同好会部長加藤と!』 『同じく副部長田中でお送りします!』 「二回目以上があってたまるかッ」 どこからともなく用意したマイクに向かって、加藤と田中が朗々と声を張った。 見事な手際でセッティングされた会場。 バトルフィールドとなるオセロのゲーム一式が三揃い、等間隔を置いて中庭に並べられている。人数分用意さ れた座布団に、選手達はめいめい腰を下ろして対面の相手に敵愾心を燃やす。……なんだか不良にとってはアイ デンティティがぶち壊れかねないシュールな光景になっているが、面子に関わる勝負にそんな些細なことはもは や関係ない。全然ない。 『加藤部長、試合形式はどのように?』 『メンバーを先鋒戦、中堅戦、大将戦に振り分け、三組同時にスタート。それぞれ時間無制限一本勝負で、二人 以上勝利したチームを勝者とします! ……引き分け? それも人生だから』 『いたってシンプルですね。というわけで、極限の盤面に挑む勇猛なる戦士(ボードゲーマー)諸君を紹介しま しょう!』 そこでウンウンと咳払い。 『カップルウォッチャーズ先鋒! 恋する乙女は世界の破壊を防ぎ宇宙の平和を守る! 普通科一年、後輩ちゃ んは今日もラブリーチャーミー!』 「先輩、愛してます!」 『対するチーム幸せ撲滅計画先鋒! 寒々とした丸刈りは、カップル狩りに青春を捧げた証なのか!? 普通科 二年、小型省は別に野球少年じゃないッ!』 「いや捧げてまではないス」 先鋒戦/後輩(黒)vs.小型省(白)。 『カップルウォッチャーズ中堅! 混迷の仁科学園に三倍速で彗星のように現れた謎の美少女戦士! あるいは 野鳥の会の女か! カップルウォッチャーに若さゆえの過ちは許されない!』 「かくいうあたしは生まれてこの方、おじいちゃんにだってオセロで負けたことはないんだから!」 『チーム幸せ撲滅計画中堅! 夏のビーチにありがちな男と女の不適切なカンケイをも切り裂く人食い鮫の背び れがモヒカンの正体! 普通科三年、中型那賀の顎門が迫る!』 「おじいちゃんといわれてもな」 中堅戦/謎の美少女戦士・カップルウォッチャー(白)vs.中型那賀(黒)。 『カップルウォッチャーズ大将! 後輩ちゃんとデキてないってマジなの? 変な意地張ってないでさっさと素 直になっちゃいなYO! 普通科二年から頼れる先輩が参戦だ!』 「おいなんで俺が大将なんだよ」 『そしてそして、チーム幸せ撲滅計画大将ォッ! 隆々たるリーゼントには無限大の嫉妬の力が篭るのか!? 我が名はジェラシック! 普通科三年、大型台こそ勝利の鍵だッ!』 「さっさと終わらせてやる」 大将戦/先輩(黒)vs.大型台(白)。 『オセロゲームにおいては、黒のほうが先攻となります。それで特に有利不利とかはないので安心めされい』 『そろそろ時間かな。……それでは皆様お待ちかね! カップルウォッチャーズvs.チーム幸せ撲滅計画、オ セロゲーム大会――』 加藤卓上同好会部長の溜めに緊張が走る。 後輩、小型省、カップルウォッチャー、中型那賀、先輩、大型台。死地に赴く彼らに滾るのは、カップルや想 い人に向けるそれぞれの感情なのか。いいや、恐らくそうではない。ただ眼前に立ち塞がる難敵を撃破せんとす る、純粋な戦意のみがそこにはあったはずだ。 時計の針は進む。約束された時刻は、ああ、誰かの顎を汗のひと滴が伝い落ちたときと重なった! 『――戦闘開始ッ!!』 かくして、誰も見たことのない壮絶な戦いの幕が、ここに切って落とされたのだった。 ※ 「くっ、パスっス……」 「あれ? これってもう私の勝ちですよね?」 『まさかの中押し勝ち! 後輩選手やたらめったら強い! むむ、ここから逆転することは不可能でしょう!』 先鋒戦/後輩(黒)vs.小型省(白)の勝敗は、後輩の圧勝という形でえらいあっさりとついた。 先輩とセットにされた後輩は、身体能力のみならず演算能力までも、容易に人類の限界を越える節がある。 「先輩先輩! どうです? 恋する乙女は無敵なのです! ばちこーん☆」 小踊りしながら投げキッス。ついでにウインクなんぞしてみせる。すぐさま先輩にちょっかいを出しにいくあ たりに、地味に性格の悪さが出ていた。 「イラっとくるからその謎のポーズ止めろ」 「……クる?」 「都合のいいとこだけ抜き出すなよ……」 ――カップルウォッチャーズ 1ポイント / チーム幸せ撲滅計画 0ポイント 「小型省がやられたか」 「ククク。奴は我ら幸せ撲滅三人衆の中でも一番の小物」 「今のうちにせいぜい、束の間の勝利を喜んでおくことだな」 「何気に俺の扱いひどくないっスかねぇ……」 晩春のそよ風がやけに目に沁みる小型省だった。 ※ 『大将戦、大型台選手と先輩選手のゲームは乱戦になっております! 先輩選手が仕掛けた罠を大型選手、類稀 な勝負勘で躱していくゥゥゥ! 形勢は……先輩がやや不利か!?』 「策士策に溺れるってな」 大型台の指の間で、ばちりと小気味よい音を立てて駒の白黒が裏返される。そんな仕草が意外なほど様になる のが、不良グループを纏めるこの男だった。 「まだまだ、これからだ……!」 先輩が光るような一手を盤上に放つ。そこにもさり気のない“誘い”の匂いを大型台は嗅ぎとった。 策に溺れながら、あくまでも自分の姿勢を貫くか。あるいは溺れる中にも光明を見出したか。 「いつもの先輩らしくないですね。中盤からこういう展開だと、もっと柔軟に戦術変えちゃうのに」 それは、熱くなっていたからだろうか。平静さを失っているという意味ではない。それは胸の奥底に揺らめく 火、男の“意地”なるものとも呼べるか。 先輩と大型台はどちらからともなく、ふたり口の端を吊り上げ、――激突した。 「先輩の愛が世界を救うと信じて! ご声援ありがとうございましたッ!」 「うるさいよこの馬鹿」 傍から後輩が喚き散らしたせいかは定かではない。 『激烈なるかな大将戦! 僅差で勝敗を制したのは、チーム幸せ撲滅計画、大型台選手ッ!!』 「俺の勝ちだな」 「ちっ……あと一歩足りなかったか……」 ――カップルウォッチャーズ 1ポイント / チーム幸せ撲滅計画 1ポイント 「しかしいい気になるなよ。すぐに第二第三の先輩が……」 「怖ぇよ」 強面の勝利者にも臆することなく芝居掛かった台詞を放つ後輩に、すかさず先輩がツッコむ。息ぴったりの応 酬の様子が、先輩の頑なな主張の蓋然性を著しく損なっていることに、本人は気づいていない。 ともあれ、これで一勝一敗。未決着は残るひとつ。 ※ つまり中堅戦/謎の美少女戦士・カップルウォッチャーvs.中型那賀ですべてが決まる! 「……おかしいな。この番組はあたしという主役を中心に回っているはずなのに、全然活躍できてないよあたし。 ねぇなんでかな妖精の国からやってきた良き相談役、ザザビーちゃん……?」 「見えんな」 「そこに何かいるのか……?」 ぼそぼそと呟くカップルウォッチャーを訝しむ対戦者中型那賀と観戦者達。敗色濃厚になったころからごらん の有り様だった。アイシールドのために窺い知れないが、妖精が見えるくらいだ、さぞ虚ろな目をしているに違 いない。 『カップルウォッチャー選手が何だか輪を掛けてヤバげな感じに出来上がっております中堅戦も終盤に突入! 俄然盛り上がってまいりましたァ! 盤面を見たところ、チーム幸せ撲滅計画中型那賀選手が優勢か!?』 『しかし、しかし! ドンデン返しこそが、このオセロなるゲームのカタルシス! スーパーヒーローもかくや といった一発逆転だって夢じゃな……い……んだけど……』 威勢の良い実況がだんだん尻すぼみになっていく。 一見すると互角のようでいて、その実まともな打ちどころがないのだ。 もうここから勝つとか無理じゃね? そんな感じだった。 結果。 ――カップルウォッチャーズ 1ポイント / チーム幸せ撲滅計画 2ポイ 「むきぃぃぃぃぃーッ!! もう怒った!! もう怒ったもんあたし!!」 「負けたからっていきなりキレた!?」 「子どもか!」 「落ち着け近森さ」 「謎の美少女戦士だっつってんだろぉがぁ! もぉー! もー!」 「わ、悪か――ガフッ」 『物を投げないで! 物を投げないでくださいッ!』 「ああっ、先輩、大丈夫ですか!? ……ハッ! こ、これはもしかして先輩のカラダを好きに弄くり回せる千 載一隅の乙女チャーンス!? そうと決まれば!!」 「なんのカウンタァァ!!」 「どうせ俺なんて……」 『卓上同好会部員募集中です!!』 「帰るか」 「ああ」 「そんなことより野球やろうぜ!」 「これもみんな、みーんなチンピラどものせいなんだもん! だからみんな燃えて消えちゃえばいいよ! そう だよ、みーんな燃えて消えちゃえ! あは。あはは」 《カップルウォッチャーととろ。絡まれていたカップルは、きみが場を引っ掻き回したおかげで事なきを得たん だザビ。それでいいじゃないかザビ》 ……………… ………… …… ※ 果たしてこのバカ騒ぎがどう幕を下ろしたのか、それを報告せねばなるまい! 完全下校時刻を迎えることで、グダグダなりにどうにか事態は収拾した。 この戦いに勝利者はない。 ああ、いたとして、そこに意味があったのか、どうか。 カップルデストラクション幸せ撲滅の三人は相変わらずカップルをシメるために目を光らせているし、それに 対するカウンターアタックとしてカップルウォッチャーは武装の充実を図っているという。先輩と後輩の仲は特 に進展していないし、卓上同好会に新たなメンバーが加わったという話も聞かない。 ひとは何のために生まれ、何のために戦ったのか。答えなど当分、出せそうになかった。 けれど―― けれど結果論ではあるが、いえることがひとつだけある。 カップルウォッチャーととろ!! 初陣で見事、学園の恋人達を救った!! おわり 前:カップルウォッチャーととろvs.幸せ撲滅計画(1) 次:先輩とショウジョウバエ培養装置
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「…いかんな」 手にした紙っぺら一枚を見て、男は唸った。 先月末の、脂肪肝診断…いわゆるメタボ検診、その結果は 彼の想像を遥かに上回る勢いで限りなくイエローゾーンへと近付いている。 (なんでまた、俺が?) 去年までは、こんな事はなかった。 少し肝臓の値に怪しい数字が並ぶ程度で、基本的には… 健康そのもの、だったはずなのだが。 (とにかく、これはいかん) 彼は、より一層の決意と共に、部の指導に精を出すことを誓うのであった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「んおらぁぁぁぁっ!!」 「ちょ、ちょっと先生!?」 「おーおー、何じゃいなありゃ」 朝練の開始早々、ユージと互角稽古を始めるコジロー、と見守るキリノ他の面々。 その様子は、まだ川添道場に行く前の…空回りして燃えていた頃の雰囲気に近い。 「コジロー先生、またお腹壊してぶっ倒れちゃうんじゃないのー?」 キリノの突っ込みが入ると、何とか剣を下げるコジロー。 「む…っと、いやユージ、すまんな。…ちょっとカロリー燃焼させたくてな」 「いや別に、全然構わないすけど…」 およそこの顧問の口から出る単語としては、かなりの違和感を含むその言葉に、 面を取りつつ顔をしかめるユージ。「カロリー」? 「なになにせんせー、ダイエットでも始めたの?」 「確かに最近、ちょっと顔丸んで来てますけど…前考えたら、丁度いいと思いますよ?」 サヤとミヤが同時にその単語に反応する。 「いや、実はなあ…」 ―――――かくかくしかじか。 説明のあとコジローが検査表を見せ、各自がそれぞれに反応を示す。 「むむー、やっぱり肝臓ですなあ…」 「お酒飲み過ぎなんじゃないのー?」 こないだの合宿でも、飲んだくれてぶっ倒れてたしさ、とサヤが続けると表情に難色を示すコジロー。 「いや、あれは…すまんかったけど……最近はもうビールくらいしか飲んでないのにな?」 「うちのお父さんも晩酌するけど、別に問題なんか出た事ないって言ってるのにね~、ふむふむ」 「あ、うちもですー」 千葉家と東家、両家の例を挙げられ言葉を失う。 (…なんでだよ畜生!) 俺はまだ26歳だぞ、とでも言わんばかりの歯痒さに身を震わせていると。 「でもこれ、運動不足って言うよりは食生活の偏りの方が大きくないですか?ホラここ」 ミヤが指差すと、バランスを考えた食事を、という医者の助言がある。 バランスを考えた食事。顧問の。 皆が一斉に顧問を見、そのあと部長の方に視線を向けようとして、しかし意思の力でそれを抑える。 その微妙な動きに少し違和感を覚えた対象者二人であったが、意にも介さず立ち上がると。 「…まあ何せともかくまずは運動だ!練習練習!」 「そうだよー!動けばきっと痩せられるよ!」 顧問と部長が同時に声を発すると、はいはい、とそれに付き従う部員たち。 そうして稽古の再開となった運びの最中、誰も違和感を感じなかったキリノの言葉に一人だけ耳を貸した者がいた。 ―――――「痩せられるよ」? 先輩、自分の事じゃないのに…とタマの抱いた疑問は、しかし練習中にすぐに消えてしまった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「お」 「…あ」 昼休みの道場。 カップ麺に湯を注ごうとしていた所に、闖入者がひとり。 「…もー、そんなものばっか食べてるからあんな判定もらうんじゃないの?」 皆と一緒に昼食を摂る為にやって来たサヤが開口一番にそう告げると、 「いやだって、今日キリノまた調理実習で遅れるって言うからさ…お腹すいちゃって」 あんたどんだけキリノ頼みなんだ、とサヤが呆れ顔を向けると、後ろからどかどかとやって来る他の部員たち。 「おー、先生またカップ麺かぁ」 「ったく…あたしとダンくんのお弁当ちょっと食べます?」 ダンとミヤに続き、ユージとタマ、そしてサトリも。 「先生…うめぼしも健康にいいっていいますから」 「あ、じゃあ代わりに俺の弁当ちょっとあげるよ、タマちゃん」 「お、お前ら…ありがとうなぁ」 生徒からの好意に感激するコジローを更に喜ばせようと。 私も、と続こうとした所で鞄からゲームパッドのようなものを覗かせ、 一瞬で引っ込めたあと涙顔で蒼褪めるサトリに、道場の空気は一変する。 「さ、さとりん…あ、あたしのお弁当、ちょっと分けたげよっか?」 サヤがそう言うと。 「さ…サトリ、あたしとダンくんのお弁当も、食べる…?」 「東さん…あたしのごはん、ちょっとだけなら…」 「お、俺のお弁当、あげるよ…母さんの作ったのだけど」 次々と続き、捧げられる、本来コジローに与えられる筈だった供物。 (こ、こりゃまあ流石に、貰えんわな…) コジローが軽く嘆息をつき、さて、と割り箸をわり、カップ麺を開こうとした所で。 「ごっめーん!遅れちゃった」 救いの神は、そこに現れた。 頭には三角巾をつけ、割烹着を着たままで、息せき切らせてやって来たその女神は、 両手に余るほどのお盆を抱えて、3段重ねの重箱を提げている。 「ほいセンセー、調理実習でクレームブリュレ作ったんすよ。…みんなも食べてね!」 どす、という勢いで全員の座する中央に盆をおろすキリノ。 程よく焦げて、周囲に暴力的な甘い薫りを撒き散らすその塊は、 「…1キロくらいあるんじゃないのこれ」 サヤの突っ込みを待たずとも誰もがそう思えるほどに…膨大であった。 しかし、目を輝かせる顧問にとってその量は逡巡のきざはしにもならない。 「サンキューな、キリノ!いただきまーす」 ササっとキリノによって切り分けられたその塊の、四分の一はあろうかというこれまた塊を、嬉々しげに平らげていく顧問。 自身にもその半分くらいはあろうかという塊を取り分け、他の部員たちの分も用意すると、 「お弁当もどーぞ~」 3段重ねの重箱をぱかぱかと開き、一緒につまんでいく。 うまいうまい、おいしいおいしい、と揚げ物をばくばくと平らげて行く二人に、こぼすサヤとミヤ。 「あっち…あんだけで脂質50gくらいは行ってるよね」 「いえ、全部で合計3000kcalくらいは…あるんじゃないですか、あれ」 ふと、サヤがキリノに視線を移す。 ダイエットの話をしていた顧問につられて気付かなかったが、 (そういえば…な、なんかこの子も、丸々してきてるみたいな…!) 見れば見るほど気のせい、ではない。 割烹着を脱いだ制服の上からでもわかる。 首回りや、胸やお腹はだんだんと丸みを帯び、お尻はスカートからはちきれんばかりだ。 「あれ、どうしようか…突っ込んだ方がいいのかな?」 「ほっとけばいいんじゃないですか?幸せ太りってやつでしょ…しょうもな」 そんなサヤとミヤ、二人の会話も全く耳には入らず、凄まじい勢いで重箱を開けてゆく。 やがてそれが底を尽き、お盆の上からデザートも消え失せると。 「ぷあー、食った食ったあ」 「こりゃ、相当一杯運動しないといけないっすねー、ふふ」 食べ終わり、そのまま大の字になって寝っ転がる二人。 その光景を見ながら、或いは純粋な心配する気持ちから、或いは自戒の為に。 他の部員たちは一同にこう思うのであった。 ――――健康には気をつけましょう。
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光回線は良いもの?悪いもの? 今日の世の中なくてならならないものになりつつあるインターネット。 誰しもが普通の生活の中で当たり前のように利用されていると思います。 最近では光回線以外に、無線回線(Wi-Fi)などもはやってきていますが、まだまだ速度面では光回線に遠く及ばないものではないでしょうか? では光回線とはどういうものでしょうか? 一昔前はADSLやナローバンド回線というものが主流でしたが、今では日本国内ほとんどが光回線で網羅されていると思います。 その光回線の構造はいかに。 近くの電信柱を見て見ると、通常の電線より一回り太く、その回線の周りを細い線がグルグル巻きにされている線があるかと思います。 それが現在の光回線です。 回線の中では、無数の光信号が情報として行き来しあっています。 速度が光並みに速い、という点から光回線と名づけられたとされています。 光回線の一番のメリットといえばその速度。 http //www.hikarikaisen-good.com/ ADSL回線とは比べものにならない速さで、速度をM(メガ)で表しています。 提供元の発表では100Mや1000Mというものも出ています。 では光回線のデメリットはどういったものでしょうか? 私が思う光回線のデメリットは次の2つです。 1つめは、高層のマンションなど、上階層まで回線をもっていけないという点です。 コレは光回線特有の現象で、高層マンションなどには2〜3階までしか光信号が上れないので、低い階層部分に分伝盤が設置されており、そこからケーブルで各階の部屋まで信号が送られているということです。 ようするに、直接高層階の部屋までは行っていないという事です。 2つめは、地方に住まわれている方の所まではまだまだ配備されていないという点です。 現在日本国内、主要都市部ではほとんどが光回線を利用するため、どこでも回線を引っ張れる状態ですが、地方(地域によります)になると光回線を契約してから、電信柱の回線工事が始まり、自宅近くの電信柱まで回線を引いてから、ようやく自宅まで回線が引けるという点です。 私の知り合いで契約から工事まで1ヶ月半くらい待ったという人もいます。 このように光回線はまだまだデメリットはあるものの、いまの世の中にはなくてはならないものだと思います。
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――――――暑い。いや、これはもう…熱い。 道場の中に蜃気楼が見えた時は流石のコジローも我が目を疑ったが。 とにかくこのうだるような暑さの中でも、練習がお昼までの半休日であっても… 部活動とは清く、正しく、楽しく、そして恙無く。 ……行われなければ、なら、な…い… 「…だあぁぁぁっ!!暑いもんは暑い!大人も子供も関係あるかちくしょうめ!」 「なぁユージ、コジロー先生がまたおもしろいぞ」 「いやぁ…暑いからねえ…俺も、さすがに…」 道場の片隅で大の字になり、ひたすら暑いとわめく教師を指差し揶揄しながら、 肩にかけた汗まみれの手ぬぐいをいじって談笑するユージとダン。 女子は…レディーファーストという事で、一足先にシャワーの真っ最中。 キャッキャッと黄色い声がシャワー室の扉の向こうから聞こえて来る。 「…ねえ、ダンくん…俺たちって…」 「……言うな…ユージぃ」 「あづいあづいあづいあづいあづ(ry」 三者三様に、じっとしていても滴り落ちる汗、及びその他諸々の事情とそれぞれに格闘していると。 徐々にシャワー室の声が女子更衣室の方へ移行したようだ。…もうすぐ。 まだかまだかと外で待つ三人に、かちゃり、と軽い音がして女子更衣室の扉が開く。 「お待たせー、ごめんねー長くなっちゃって」 「遅せぇよキリノ!待ち草臥れただろうがっ!」 「いやーだって汗いっぱいかいちゃったしー」 キリノの言い訳を華麗にスルーして、シャワー室に飛び込むコジロー。 それに続くユージとダン。 「おらおらっ、流すぜ流すぜー!」 「つ、つめたっ!ちょっ、水止めて下さいよセンセっ!」 「じぇっとうぉっしゃあぁぁ~~」 「冷てぇっ!てめえダン何しやがる!」 「(ええー…)」 ぎゃあぎゃあとさわがしいシャワー室の喧騒をよそに、外では帰り支度を整える女子5人組。 とはいえもちろん、ミヤミヤはダンを待ち、タマはユージを待つ……そして、キリノも。 「あれ?どしたのキリノー、帰らないの?」 「あ~今日ちょっとセンセーに用事があって」 「ふーん…じゃあ、また明日ね!」 そう言って、先に帰って行くサヤとサトリに手を振りながら、男衆が出て来るのを待つ三人。 ミヤミヤ・タマ・キリノ、という普段はあまり見ない、珍しい取り合わせではあるが… やはりキリノを中心に、会話は弾む。そのたけなわ。 「ねーミヤミヤにタマちゃん、そういえば浴衣って着た事ある~?」 不意のキリノの問い掛けに、ミヤミヤは訝しげな目を向け、タマはきょとんとしている。 「…何ですか?そりゃありますけど」 「あたしは、去年神社のお祭りで…」 「そっかそっかぁ~、で、二人とも、反応どうだった?」 搾り出した返事に、息もつかせぬキリノの怒涛の質問。 ミヤミヤの方は一瞬呆けるものの、すぐにその意図を察し… 「え?……あ。そ、そりゃもう…って何を言わせるんですか!」 と、どうにか返答するものの、もう一方のタマは未だによく分かっていない様子。 「???はんの…う?」 「うんうん、ほら、ユージくんのとか…さ」 促すようにキリノが同伴者の名を挙げると、 ぽんっ、と頭の中で手を打つのが見えたように瞳を輝かせるタマ。 「あっ…はい。ホメてくれました。お母さんの小さいの頃のでしたけど…似合ってるって」 「そっかそっかあ……にへへ」 タマの体験談に勇気付けられ、自然と顔を綻ばせるキリノ。 そこへチクリ、ミヤミヤからのささやかな反撃。 「……先生とご予定ですか?先輩」 「うん!話はこれからなんだけどね」 その反撃は軽くいなされたものの… あくまで楽しげなキリノに、ああ、やっとこの人も重い腰をあげるのか、とミヤミヤが内心で一人ごちていると。 やがてがちゃり、という重い音がして男子更衣室の扉が開き、出て来る果報者たちが――――三人。 「お待たせまいはにぃ~」 「ダンくん、待ってたわ~」 まず真先に出て来たダンにミヤミヤが飛び付くと。 「お待ちどうさま、タマちゃん。じゃあ帰ろうか」 「うん」 タマもユージにぴとっ、と引っ付く。そして最後に… 「気ぃつけて帰れよー……って、キリノ?なんでお前までいるんだ?」 「えへへ、実はセンセーにちょっとお願い事がありまして」 なんのこっちゃ、とコジローが口をへの字に曲げると、 もう帰り支度の出来た他の2組が道場の入口から手を振っている。 『先生、部長、じゃあまた明日ー』 「おーう、お疲れさん」 「ばいばーい」 挨拶を交わし、ふぅ、と溜息をつくキリノ。 「本当に……仲良いっすねえ」 「…まあ、あいつらはな…幼馴染だし、恋人同士だし―――片っ方は、未だに信じられんが」 キリノにしてみれば、それは先程のシャワー室から聞こえていたコジローとユージ、ダンの楽しげな声を指しての物で… 自分の立ち入る事の出来ない男の子同士の仲の良さを少し羨んでの言葉だったのだが。 生憎とタイミングが悪く、コジローは先に帰った2組のカップルの方を考えてしまったようだ。 「そんで、用事って?」 それに気付かぬコジローが切り返すと、 まあいいか、と嘆息をつき、申し訳無さそうに両手を合わせて頼み込むポーズをとるキリノ。 「あの、別に大した事じゃないんすけど……センセー、付き添い頼まれちゃくれませんか?」 「はぁ?何に…何の…誰の付き添いだって?」 なかなか当を得ない頼み事に、最初はただポカーンとするだけのコジローだったが… 話を聞いてみると、何の事はない。 キリノの家の近くで今晩行われる割と大きなお祭りに、 本来ついて行くはずだったお父さんが用事が入って行けなくなり… 騒ぎ立てる弟と妹たちの力押しに寄り負け、誰か代理を探す羽目になり、 そしてコジローに白羽の矢が立ったと。つまりは、そういう事らしいのだが。 「まあ…そうは言ってもあの子ら、すぐ居なくなっちゃうんですけどね」 「そりゃあまあ…年頃だもんな」 そう言いながら、手の掛かる弟や妹の事を語るキリノはとても楽しそうに見え… それは勿論―――コジローにとっても、好ましい物でもある。 受けない道理はどこにもない。 「…よっしゃ、んじゃ、行くか。そのお祭り」 「ホントっすか!ありがとうございます~」 「で、何時にどこ集合だ?」 「え~っと、あたしの家、分かりますよね?5時ごろに来てくれれば…」 快諾の返事に、キリノの表情がより一際明るくなる。 (まあ、受ける理由なんて…その笑顔だけで十分なんだけどな、ホントは。) ……ふと、コジローはそう思った。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「…じゃあ、もうすぐ着くからな」 「うん、待ってるー」 そう言って、車中のコジローがハンズフリーのスイッチを切ろうとしたその時。 電話の向こうから何か…子供の声がする。 「お姉ちゃん、誰とお話してるのー?」 「え…先生だけど…」 「ふーん。なんで鏡見ながらお話してるの?」 「み、見てないでしょ?なに言ってるんだかもう!」 「あ、髪なおしてるんだね~ボサボサだから~」 「し、してないってばぁ!」 ガチャッ、ツーツーツー。 どうやら向こう側の通話が切れたらしい。 「何なんだ…まあ、賑やかな家族だな。お…ここか」 予めキリノから聞いておいた駐車場に車を停め、 車中から車で確認した「惣菜ちば」へと…徒歩にして2分ばかり。 お客さんでごった返している店の前まで来ると、可愛らしい浴衣を着たキリノが出迎える。 ……が、こちらに気付いたキリノの様子がどうもおかしい。 どこか呆然としている所へ声をかけるコジロー。 「よっ、3時間ぶりくらいだな」 「…あっ。お、お久し振りです…あれ?え?」 訝しげにまじまじとこちらを見つめるキリノ。 気のせいか、頬が少し赤い。その目がどうも見ている物は… 「ああ、これか?…いやこんなの、今日みたいな事でもなきゃ着られないしさ」 コジローが着ているものは、母親が無理矢理置いていった―――着流しの浴衣。 普段の背広姿の時は、概ね襟元を開けだらしなく見せているコジローではあるが、 何故かこういう格好でそのポリシーを当て嵌めると、妙に… アウトローな雰囲気が際立つというか、立ち居振る舞いに奇妙な艶やかさが出る。 しばらく見入ってしまったキリノがぶんぶんと首を振り、ひとつ深呼吸すると。 「カッコいいですよ、センセー…ふふ」 「そか?変じゃないかな?…ありがとな、キリノ」 そのまましばらく、キリノと立ち話を続けていると、 えらく可愛らしいおばさんがにこやかに話し掛けてくる。 どうやら、キリノのお母さんらしい。お客さんを捌いて、ひと段落ついたのだそうだ。 「うちの子がいつもお世話になっております、先生…」 「いっ、いえ俺の方こそ……娘さんには、本当に…世話になりっぱなしで…」 (――――馬鹿か。ちげえよ俺。) 教師が生徒の世話になってどうする。 あわてて訂正しようとするが、言葉が出て来ない。 (まあそりゃ、事実なんだけどさ。) 事実は事実か。と、どうにかコジローの態度が受け入れ態勢に転じた所で… どすん。 「うぐっ」 不意に、身体の裏側に強い衝撃を感じ…腰の辺りに鈍い痛みが走る。 「せんせー、今日はよろしくっ!」 「よろしく~」 キリノの姉弟の弟の方が、タックルをかましてきたらしい。 キリノとお母さんがあらあら、と慌てて子供たちを宥めると。 「ごめんなさいね…この子たち、先生に会えるのが楽しみだったみたいで……迷惑じゃありませんでした?」 「いっ、いえ…でも、俺のこと、なんで知ってるんですか?」 「それはもう…ねえ?」 そう言うと、母と弟と妹の視線が一斉にキリノに注がれる。 キリノは照れて、顔を耳まで赤くしながら頭を掻いているだけだ。 (コイツは……家で俺の事をどんな風に喋ってるんだ…?) 疑惑の目を向けても、視線が合えばキリノの顔は赤くなるばかりで梨の礫。 埒も開かず、二人して弟妹たちにからかわれながら携帯で時間を確認すると――――6時、少し前といった所。 「んじゃ、そろそろ行くかぁ…」 「…うん」 「行こうぜ行こうぜー!」 「ごうごう~」 お願いします、と手を振るお母さんの姿が段々遠くなってゆき―――― お祭りへと向かう陣形は、先を行くキリノの弟妹と、そして後方にコジローとキリノ。 隣り合い、あれがしたいこれがしたいな、と談笑しているうちに、時間は過ぎ… あっという間に、会場は目の前、であった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 会場に着き、居並ぶ露店の中でまず4人が辿りついたのは、豪華な景品を掲げる射的のお店。 「先生、あれやってよ、P○Pとって!」 「射的か…変わらんなあ、こういう遊びって」 「アンタ○S派じゃなかったの?」 「友達がモン○ン始めちゃってさー」 「とってとってー」 弟たちに急かされる様に露店の親父に金を払い、 スナイパーよろしくライフルを構えるコジロー。気分はゴルゴか、次元大介か。 道場で稀に見せる限界近い集中力をフルに発揮させ、獲物を狙う…しかし。 (これ、けっこう痛い出費だな…トホホ…) 雑念が入り、一射目の弾丸はドングリほどの的を僅かに外す。残りの弾丸は、二発。 むむむ、と集中し照星を覗き込み、第二射目――――しかしそれも、僅かに的を掠めただけ。 最後の弾丸をこめるコジローの手に、否応無しに力が篭もる。 「先生、がんばってっ…」 「がんばれセンセー」 「がんばれ~」 キリノの応援に余計に肩に力が入ると、少しライフルを置き、ノビをするコジロー。 よし、と再び構え直し、しっかりと狙いを定め、トリガーに手をかける…その時。 ―――――ぐぐうぅ。 その場の全ての人間がその所作に注目するなか、鳴り響いたその音は……どう聞いてもお腹の音そのもの。 その恥ずかしさの余りつい、うっかりトリガーに力を入れてしまって発射された弾丸は… 惜しくも棚の段差に弾かれ、垂直に上へと撥ねあがる――――ゲームオーバー。 しかし、そうかに見えた弾丸は屋根に当たり、ひゅるり、と落下してくると真下にあった奇妙な人形の脳天を捉える。こつん、ぱた。 「ほい、おめでとー」 「いっ、いや!今のってアリなんすか?」 「まあ、ええからええから、兄ちゃん」 店主がもうほとんど失笑を堪えながら、無理矢理、押し付けるような形で手渡してくるその人形は… 言ってはなんだがかなり歪な、というか…不恰好な形をした、狸のストラップ。 もちろんそんな物に目を輝かせるのは、自分のお袋を除けば……背後にいる、一人しかいない。 振り返れば…案の定、その瞳は輝きに満ちている。 「ごめんな…代わりにだけどホラ、キリノ」 「……いいんすか?」 「いいも何も…やるよ」 「ありがとうございますっ!」 そう言って深々と頭を下げると、どこかへとダッシュで走り去ってしまうキリノ。 キリノの弟妹たちは、その様子を面白おかしそうに見守っている。 「どんまいどんまい先生、惜しかったじゃん」 「おねーちゃん、ああいうの好きだと思うよ~」 「そ、そか…取れなくてごめんな」 やや失意のうちに、露店の暖簾をくぐると…キリノが息を切らせて帰って来る。 その手には少し大きな袋を携えている。 「えへへ…お礼っすよー、なんか沢山おまけしてもらっちゃった。みんなで食べよ?」 生姜とソースの香ばしい香りが鼻をつく…これは、たこ焼きか。 沸き上がる4人にコジローのお腹がしっかりぐうう、と返事を返すと… 少し人込みを外れ、たまたま空いていた長ベンチに腰掛け、いただきます。 「10個入りふたつって言ったら、なんか店のおじさんが一杯くれちゃって」 開けてみると2個ある舟には、それぞれ14~5個のたこ焼きが山のように盛られている。 (まあ、オッサン…気持ちは、わかるよ。) と、コジローがどうでもいいような呟きをただ宙に向かって投げ掛けていると。 おもむろに楊枝に刺したタコをひとつ、コジローの口の前に差し出すキリノ。 「はい先生、あーん?」 「…ちょっ、待てオイッ!」 (――――弟たちがいる前でする事じゃねえだろ。いや人前どこであってもだ!) 全力でそう思ったコジローの口から、思考のカケラが漏れる。しかし。 「お、おとうと…」 「ん?二人ならもうどっか行っちゃいましたよ?……すぐ居なくなっちゃうんですよ」 「………え?」 たしかに、ベンチの横に居た筈の姿は既に無く、 空箱になったたこ焼きの箱だけが前後にぷらぷらと揺れている。 (なんてえ…素早さだよ…) 若さってのはスゲエなあ、とコジローが感心している傍に、 相変わらず楊枝のたこ焼きを突きつけたままやや不機嫌そうになっているキリノ。 「むー、先生イヤなの?」 「いっ、いやっ、決してそういうわけでは…」 「…エビフライは勝手に取っちゃうのに、あーんされるのはイヤなの?」 「……スイマセン」 観念したコジローがぱくり、と一飲みにするとキリノは満面の笑顔でにやける。 そのまま一本の楊枝で舟を空にすると、うん、と一つ伸びをして立ち上がるコジロー。 「じゃっ、回るか!…俺たちも」 「うん!」 …そのままそこら中をブラブラしながら、小一時間。 りんご飴を頬張り、綿菓子を食い、箸巻きにかぶりつき… (なんか…食ってばっかりだな、俺。) こんな事でキリノが楽しめているのか不安になり横を観ると。 逆に、いつもにも増したにこやかさがそこにはある。 「食ってばっかでごめんな…さっきは、気ぃまで使わせちゃって」 「いえいえー、あたしも…お弁当持ってくれば良かったなあ、って思ってたとこっすよ」 そんな話をしながら歩きつつ、ふと立ち止まると。 キリノの背中越しの遠景にひゅるひゅると種火が上がり、 夜空に大きな花を描いたかと思うと、やや遅れてどおん、という音が鼓膜に届く。 ――――――花火の打ち上げが始まったらしい。 「おお、キレイだな」 「ですねー」 「どっか静かに見られるとこ、探すか」 「じゃあ、さっきのベンチはどうっすか?人いるかなあ…」 その思い付きに従い、戻ってみると……幸いにして、誰も居ない。 胸を撫で下ろし二人で腰掛けると、夜空を彩る花たちの競演を見上げる。 「たまやーっ、って言うんですよね」 「古臭せえなおい…かーぎやー、ってか?」 「んふふ、そうですそうです」 取るに足らない会話を続けているうち、キリノの弟妹らも帰って来た。 妹の方はもう既にいい具合にウトウトきているようだ。 (――――8時、か。少し早いが…) 子供は寝る時間だよな、といってコジローがベンチを譲ると、 そのままキリノの膝を枕にして、ガックリと横になってしまうキリノの妹。 「しかし何か…メチャクチャだな。どうやったらこんだけ疲れられるんだ?」 「そりゃ、いっぱい遊んだしさ!ヌイグルミも俺が取ってやったし」 言われて初めて、夢うつつの妹が大事に抱えている物を見てみると、 これまたあまり可愛いとはいえないふてぶてしいいぬのヌイグルミを、後生大事に抱えている。 「そっかー…えらいんだな、妹思いで」 「えへへへ…」 頭を撫でてみると、キリノと全く同じ反応だ。 やはり姉弟なのだという事だろう。 (なんか…いいな、こういう感じ。) ふと、傍らで妹の髪を梳くキリノを見やりつつ、しんみりと考える。 自身に兄弟がいないせいと言うのもあっていまいちピンと来なかったが… この感じは、やはり――――”家族”とは、兄弟とはまさにこういう物なのだろう。 その共同体の中に自分が含まれているのは…勿論、悪い気はしない。 コジローがそんな事を考え顔を緩ませていると、花火の最後の一発が上がり、 そのまぶしさに照らし出されるキリノの横顔。つい、大輪の花火よりそちらに見入ってしまう。 「…やー、キレイでしたねえ」 「………」 「センセー?」 「んっ、ん?ああ…うん…」 なんとも、表現しようの無い感情に支配され、言葉が出てこない。 そこへまたも、キリノの弟が動く。 「センセー、何ねーちゃんの顔ばっかり見てんのさー」 「な、な、な、ばか、ちが…」 「えっ…」 そのまま二人とも押し黙ってしまうと… その光景を付かず離れずがさごそと動き回りながら、見守る弟。 まるで永遠にも続きそうな沈黙だったが、花火が終わり、徐々にお帰りの客が周りを賑わせ始めると。 「…俺たちも、帰ろうか。…道、混みだす前に」 「そう、っすね…」 そう言ってコジローが寝ている妹をおんぶして立ち上がると残る二人も続き、会場を後に。 歩き出してしまえば次第に奇妙な緊張感もほぐれ、軽い会話も弾む。 そのまま家路も半ばあたりを過ぎようかという所で… キリノがふとコジローの顔を覗き込むようにし、楽しげに告げる。 「でも…今日はホントに、ありがとうございました、センセー」 「んーいや、特別何もしてないけどな」 「ありがとうね、先生!」 道を先行く弟の方もキリノの言葉に反応し、大きな声で感謝を伝えてくる。 しかしその笑顔が、くす、とひとつ深みを帯び…そのままふっと、後ろの二人へ近寄り並ぶと。 「……ねえねえ、で、センセーはいつ俺の兄貴になるの?やっぱ卒業してから?」 ニヤニヤしながらその言葉を紡ぐと、 またもや何とも気まずい空気が場を支配……するのかと思いきや。 「あんた、いい加減にしなさいよ!!」 今度は珍しく、キリノが怒った。 ……いや、コジローと言えどもキリノのここまでの形相を見るのは初めてかも知れない。 (怖い怖い。) コジローが内心そう呟いていると、 その声に反応したのか、背中の妹がもぞもぞし始める。 どうやら目を覚ましてしまったらしい。 しばらくぼぉっとしていた妹は、今の大体の事情が飲み込めると、 「おろして~」 といい、勝手にするりとコジローの背中を滑り降りる。 そして怒ったキリノから逃げるように先を行く兄に合流すると。 「じゃあ、俺たち先に帰ってるから!」 「ごゆっくり~」 二人して手を振り上げそう言うと、 あっという間にその姿は見えなくなってしまった。 「まったく…引率の意味ねえな」 「ごめんなさい…」 「いやいや、感心してんのさ」 「じゃなくて…」 「あっ、ああ…うん」 どうにも、曖昧な返事しかしようのないコジローに、しかしキリノの胸はちくんと痛む。 コジローにしてもそれは承知の上ではあるが、かといって自分ではどうしてやる事もできない。 ”卒業”までの――――あと1年と数ヶ月。それは二人にとっては無限にも感じる長さでもあり… しかしまた同時に、1日たりとて失いたくない貴重な日々でもある。 「早く過ぎて欲しい」と「終わって欲しくない」の相反する二つの感情が鬩ぎ合う、微妙なポイント。 そんな繊細な部分をいくら姉弟とは言え、他人に茶化されれば… キリノが激昂したのも、無理からぬ事ではあった、のかもしれない。 (まったく、不器用なんだろうな、俺も…) ――――こいつも。 コジローがそう思い、キリノの頭をぽん、とひとつなでると、 無意識的にその手の方へ体を摺り寄せてくるキリノ。 そうして徐々にその雰囲気から、刺々しさや悲壮感が消えてゆけば… 必然的にそこに残る物は、いつものキリノそのもの。 やがてにっこりと、今度は少し意地悪さを含んだ笑顔をコジローに向けると。 「…ねえ、先生?」 「んっ、なんだ?」 「今日…なにか、言い忘れてる事があるんじゃないですか?」 そう言うと、さっと身を翻し、すぐ傍の街灯の照らす下に立つと、くるくる、ぱっと一回転してみせるキリノ。 その妖精のような動きに魅入られるようにじっと見ると… 普段は余り意識しない真っ白いうなじや、鎖骨の形。それから、向日葵柄の可愛い着物。 さらには腰布のリボンと色を合わせた、キリノにしては珍しい派手目の髪飾り、などなど。 それら全てが、「キリノ」という原子で出来ており、今、目の前にいるキリノという全存在を形作っている――― そんなふうに感じられ、コジローのキリノに向ける愛おしさは一杯になる。 (そう言えば……まだ言ってなかったか。ダメだな、俺。) ―――もちろん今、言うべき言葉はひとつだけ。 「ああ、ゴメンな…浴衣、似合ってるよ、キリノ」 「んふふー、ありがとうございます」 そのまま、お互いに歩きながら、その距離を縮めていく。 そして肩同士が触れ合う程の距離まで来ると、 それでもまだおずおずと宙空を彷徨うキリノの手をぐっ、と握りしめるコジロー。 それに一瞬顔を赤くし、いいのかな、という不安の目を向けるキリノ。 だが、コジローの表情に迷いはない。 「まあ、これくらいなら…いいんじゃないか?」 「………うん…」 握るコジローの手を、ぎゅっと握り返すキリノの手。 指と指をしっかり絡ませながら手を繋ぎ、再び、二人でゆっくりと、歩き出す―――――
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04月 2011年 ディーゼルマイン 同人 和泉万夜 熊虎たつみ 原画 熊虎たつみ シナリオ 和泉万夜 466 :名無したちの午後 [sage] :2011/06/25(土) 00 48 18.51 ID 8UNa0ySJ0 「はじめてどうし2」終了 うん、前半と後半で別人ですね藍ちゃん 親友2人にばれ、クラスにばれとばれる範囲が広がっていくうちにだんだん大胆になっていって、 公然といちゃつくようになっていく。 最後には藍ちゃん宅でのお泊まりも用意されていて、大満足でした。 あと、クリア後に出てくるおまけはサブカップルのSMエロがあるだけなので、見る必要は全くないよ。 467 :名無したちの午後 [sage] :2011/06/25(土) 14 50 32.11 ID XmwFweWO0 報告乙です 137 :忍法帖導入議論中@自治スレ [sage] :2012/01/11(水) 16 50 42.08 ID H6yLKqYY0 wikiではじめてどうし2の話題が2レスしかなかったのが気になって買ってみた。 まだ前半で親友バレした後ぐらいだが、 こんぶの玖羽が積極的になったという感じだなぁ こんぶで物足りなかった人向けかしら? レスにも記載されてた、「後半で別人」がどう化けるかwktkする。 138 :忍法帖導入議論中@自治スレ [sage] :2012/01/11(水) 22 10 50.75 ID S9Z604eu0 はじめてどうし2っていいゲームだとおもったんだが、そんなに触れられてないのか。 同人だからかな? タイトルどおり、初々しいカップルが少しずつ仲良くなってエッチにも積極的になっていく様子が 丁寧にかつまったり描かれていたな。 普通におススメできるいいゲームだった。
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カップルピクシー(かっぷるぴくしー) 体格300 敏捷320 器用40 魔力550 魅力250 魔攻LV3 体力LV3 命中LV3 回避LV3 加速LV3 召喚時: 戦闘開始時: ゆっくりしていってね!! 技(1):タラリア 「えっと、えっと・・・」「これこれっ!」 技(2):チュータテス 「次はこれっ!」「おっけー♪」 技(3):トロピカルストーム 「よーしいっくよー!」「うん、いいよっ!」 技(4):アクアマナ 「みずのちからっ!」「ごごごごごーっ!!」 技(5):ウィンドマナ 「びゅーんっ!」「かぜのちからっ!!」 技(6):アダムズエール 「あいのちからっ!!」 技(7):ドリフトライフ 「いやしのかぜっ!!」 戦闘勝利時: 「あいのしょうりっ!!」 戦闘引分時: 倒れた時: 「たおれるときもいっしょ!」 味方が倒れた時: 「ふたりがぶじならそれでいい!」 HPを0以下に持ち込んだ時: クリティカル時: 物理回避した時: 物理回避された時: 魔法回避した時: 魔法回避された時: 魅了した時: 魅了された時: 「ふりんはだめだよっ!!」 反撃される時: HPが25%以下の時: 名前 コメント
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現在のカップルはいません。
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